ねぇ、ツナくん。
どうして人はこんなにも簡単に零れ落ちていってしまうんだろうね?
横たわっていた自分の体が、重たくて自由が利かない。力を入れているはずなのに、起き上がることが出来なくて、
すぐ傍で涙を浮かべる貴方の顔ですら、捕らえるのが辛くて。
「目を開けて!っ!!」
私の耳は、貴方の声を捕まえるのに。貴方の瞳から零れる涙は、私の頬に零れ落ちるのに。
私は、何もできなくて、
貴方は必死に私の体を揺すって、遠のいてしまいそうな私の意識を逸らそうとするのに、私の体はどうしても動かなくて、
うつ伏せに横たわった自分の体から、紅い海が広がって、それが私の体を侵食していく。
生暖かいその液体は、私の体温をどんどん奪って。
ぼんやりとする頭の中で思い浮かべたのは、彼のこと。
彼の声、彼の表情、彼の姿。
全てが傍にあるはずなのに、瞳はその中のひとつも捕らえることが出来ない。
綱吉がの体をゆっくりと起こして、無理のないように抱き上げる。既に焦点の合っていない彼女の瞳を見て、綱吉は顔を歪めた。
「・・・・・・ねぇ、私、また、ツナくんに会えるのかな?(・・・・・・会えない、よね、)」
小さく笑い、目尻の端から涙を零す。そうして彼女は、瞳を閉じた。
(まさか自分がこんなに早く死ぬなんて思ってもいなかったけど、それでも、ツナくんを守れたなら、それで良いんだ)
さよなら、世界。
「ったく、なんでちゃんがこんな怪我負ってんだ?男なら女を守るべきだろ!」
聞き覚えのある声が耳に届いて、一瞬自分の耳を疑う。ゆっくりと瞼を押し開くと、視界一杯に白が広がった。
一体、これはどういうことだろう。私は、死んでいなかったという事なのだろうか。
何度か瞬きを繰り返した後、は視線を走らせた。
「・・・・・・ありがとう、シャマル」
「・・・ちゃんの、生命力に感謝しろよ」
悲鳴をあげる身体に鞭を打って、ゆっくりとした動作で起き上がる。喉は干からびたように乾いていたが、
それでもは声を絞り出した。
「・・・・・・ツナくん、私・・・」
「・・・?意識戻ったんだ!?」
綱吉は慌てたように駆けてくると、既にベッドから起き上がっていたの身体を柔らかく抱きしめる。
「、良かった。本当に良かった・・・!」
今にも泣き出しそうな声で嘆く。
状況が、上手く飲み込めない。この肌に触れる温もりは、本当に現実のものだろうか?
「私、本当に生きてるの?」
そう問いかければ、綱吉は小さく頷いて微笑んだ。私は怪我を負った日から、ずっと眠り続けていたのだと聞かされる。
・・・世界にさよならを告げたはずなのに、また戻ってきちゃった。
瞳を潤ませ、小さく笑いながら言うと、綱吉の顔が少しだけ強張る。
「・・・・・・まだ、俺と違うところへ行くには早いよ。もっとずっと、傍に居て」
(20080228)
お題提供:Last scene