掌の上から零れ落ちた
「ちゃ・・・ご、ごめん、なさい」
君のおどおどした言動とか、表情とか、行動とか、全てが鮮明なのに。
「レンレンから、転校するって聞いた?」
「・・・・・え、てん、こう?聞いてない。聞いてないよ、そんなの」
突然聞かされた事実に、思わず目を丸くしてルリを見る。ルリはやっぱり、と呟いて、眉間に皺を寄せた。
掌の上から零れ落ちた
私は、廉から転校することを全く知らされていなかった。どうして直接教えてくれなかったのかと問い詰めても、
今にも泣きそうな顔で俯いている。泣きたいのはこっちの方だ。
確かに廉が三星でいじめを受けているのは知っていた。
それでも廉は私にそのことを必死に隠そうとしていたし、昔はあんなに良く笑う子だったのに、今では
誰に対してもビクビクしている。
「・・・・・廉、野球、やめちゃうの・・・・・?」
が呟いた言葉に、彼は反応を示さない。それどころか瞳には更に涙が滲んでいる。
強い風が吹いて、コートの裾が捲くれ上がる。冷たい風と沢山降っている雪の所為で、顔全体が刺すように痛んだ。
それでも目元だけは、熱を孕んだ様に熱い。
「ねぇ、野球、あんなに好きだったじゃない・・・あんなに笑ってたじゃない!!」
声を急に張り上げたら、瞳から涙が零れ落ちた。流れた涙はゆるゆると頬を滑り、冷たい風に熱を奪われる。
足元に積もり始めた雪を踏みつけて廉の肩を掴むと、廉が涙を溜めた瞳はそのままにして、視線を此方へ移した。
「本当に野球辞めたいの?・・・・ホントは、野球したいんじゃないの!?」
「、ちゃん・・・」
「ねぇ・・・・・・私に、黙って行くつもりだったの・・・・・・?」
声が震えて、嗚咽が止まらなくなった。廉の肩を掴んでいた手に急に力が入らなくなる。
涙が溢れ出して、それを拭う気力すらなくて。
突然掴まれた肩に驚いて、おそるおそる振り返る。その視線の先に立っていたのは、幼馴染だった。
「・・・・・・しゅーちゃん、」
「、俺、廉に話があるんだ。校舎ん中、戻ってろ」
その言葉には返事をせず、ただ、廉の肩を掴んでいた手を離した。私は廉からの本音を聞きたかったのだけれど、
どうもそれは叶わないらしい。しゅーちゃんは一体廉に何をいうつもりなんだろう。ねぇ、しゅーちゃんなら、廉の本音がわかるの?
私は、廉の顔を一度も見ることをせず一気に駆け出した。振り返ることも、しない。
雪が視界を遮る。自分の吐いた息が、視界にぶつかる。瞼に広がる熱が治まらない。
校舎に向かって一目散に掛けていく足を、止められなかった。
*
私は今、埼玉に行くための電車に乗っていた。
今日は平日で、もちろん学校も部活もあったけれどもサボってしまった。
『レンレン、試合に勝ったよ!!』
ルリから受けた報告は、驚くものだった。廉が野球を続けているのはしゅーちゃんとルリから聞いていたけれども、
今日の試合は桐青とのものだったはずだ。桐青って、強いって聞いたけど・・・?
少々興奮気味に試合風景を語るルリを見て、やはり自分も見に行けばよかったと後悔する。
怖くて、ルリと一緒に行けなかった。
あの日、興奮して廉を問い詰めてしまった自分を、彼は許してくれるだろうか。
また、私に笑顔を見せてくれるだろうか。
不安で一杯だった私は、あと一歩を踏み出せなかったのだ。
しかし今、恐れる気持ちを目一杯に押し込んで、埼玉へ向かう電車に乗っている。
まず、あったら何を言おうか、どんな顔をしたらいいのだろうか。
会う前から緊張しすぎていて、頭が混乱している。思考が何度も何度も同じ道を辿って、途中で突然消えてしまう。
もうすぐ、廉の住むところへ着く。
(20071215)
中途半端。(・・・)忘れた頃に続きを書きます。多分。
お題提供は此方!