まさかこんな事になるなんて!
「…え、えーっと、何かな、これ」
「…………………」
なんで、こんなことになったんだろう。
体育倉庫に閉じ込められる!
私は体育委員で、体育担当の先生に言われて用具を片付けに来たことが、事の発端かもしれない。
昼でも薄暗いこの倉庫は、確認しなければ人がいるなど分からないのだ。
確かに私は物音一つ立てずに入ったかも知れないけども。(持ってきたものも、物音が立つほど重くないし)
……でも、だからって、これは無いと思う。
他のクラスの男子と、一緒に閉じ込められるだなんて。
は小さく溜息を吐いて、今は使われなくなった(と思われる)古びた平均台の上に腰掛ける。
少し距離をとった位置にいる男子生徒は、毅然とした態度で鍵の閉められてしまった入り口を睨んでいた。
彼も内心は焦っているのだろうか?(でもあんまりそういう風には見えない)
脱出しようにも、困ったことにこの体育倉庫には窓なんか無いし出入り口は一つだ。
…どうしようもない。
がもう一度溜息を吐くと、男子生徒がこちらを見ていた。
「……なぁ」
「何、ですか」
「携帯とか、持ってない?」
突然の質問に、私は目を瞬かせる。
体育の前、私は携帯を教室に置いて来た事を、しっかりと覚えていた。
「ごめん、教室に、置いてきた」
「だよなー…」
私の返答を聞いた男子生徒は、頭を抱えて座り込む。
この人、同じ学年の別のクラスの人だ。見覚えはあるけど、名前は知らない。
でも確か、野球部の人。
友達が野球部を応援していて先日クラスと名前をペラペラと喋っていたけども、一瞬で覚えられるわけも無く。
は平均台の上に、膝を抱えて座る。(後ろは壁だから落ちる心配ないし)
相手に気が付かれないように、小さく溜息を吐いた。ここに閉じ込められてから三度目だ。
彼はさっきから、何処か一点を見つめている。冷静だなー…でも、沈黙が痛い…。
膝の上に頭を預けて、斜め前に居る彼の顔をボーっと見つめる。
と、不意に彼が振り向いて、は一瞬体を硬直させた。
「寒くない?」
「へ?」
予想していたこととは、別の言葉を言われる。(ジロジロ見てんじゃねーよとか、言われるかと思った…)
暗くて彼の表情は、はっきりとは良く分からない。急に彼が上のジャージを脱ぎ始めて、はポカンとしてしまった。
「さん、これ、着なよ」
「ええ?」
差し出されたジャージに、恐る恐る手を伸ばす。そういえば私、上のジャージ脱いで友達に預けたんだった!
(通りで何だか肌寒かったんだ!)ありがとうと礼を言って、素直にそれを借りることにする。
男子生徒の厚意に嬉しく思いながら、借りたジャージを肩に掛ける。はふと、あることを疑問に思って、動きを止めた。
あれ、私名前教えたっけ?いや、教えて無いのに知ってるはず無い。だって私は彼を見たことはあっても、話したことは無かったから。
「あの、」
「ん?」
「よく、私の名前知ってたね?クラス違うし私たち話したこと無いし、接点無いし」
「あ…あー…。さん、7組だろ?花井たち居るし、俺ら、よく遊びに行くから、さ。それで、たまたま、し、って」
あれ?何か、私変なこと聞い、た…?彼の喋り方が、急に途切れ途切れになった。
彼が急に一人で挙動不審になって、あー!と何かをかき消すかのようにブルブルと頭を振って(何だか犬みたいだ)、思い切ったように顔を上げる。
「あの、オレ、さ、9組の泉。泉、孝介」
「……泉くん?うん、覚えた。」
唐突に名乗った泉に変な顔をすることなく、が笑いかける。
それでも、先程から強張り始めていた泉の表情が、さらに強張った。
「あのさっ…オレ、さんのこと、好き、なんだけど…付き合って、くんない?」
「へっ!?………えーっと、えと、」
ど、どうしよう!!
その一言ばかりが、頭の中をグルグルと駆け巡る。
そして私は、
「わ、分かりましたっ!!」
この答えをするのが精一杯で、でも泉くんの顔を真っ赤にさせるには充分だった様でした。
結局その後三時間ほど(昼休みになって漸く皆おかしいと気付いてくれたらしいです)体育倉庫の中で過ごしました。
まずは、泉くんのことを知ることから、始めようと思います。
(20070317)(20070609再アップ)
体育倉庫の中での出会いも、そう悪くは無いもんです(?)
実は体育倉庫を閉めたのは田島だったというオチ。