ひとさじの甘さ





頬を照らす夕日が、私たちを照らす。

私は後ろを歩く泉を置いて、5・6歩先を歩いていた。



「なあ、」


「・・・・何」



後ろを振り返らずに、返事を返す。

泉からの返答は無くて、ふと後ろからの足音が聞こえなくなったことに気がつく。

慌てて振り返ると泉は立ち止まって私を見ていた。



「なあ、


「何?」



今度はしっかり、泉を目を合わせる。

泉は少しだけ視線を合わせると、すぐに視線の先は足元へと変わった。



「抱きしめてもいいか?」


「え、」



泉は私の返答を待たなかった。

一瞬で視界の景色が変わって、目の前が泉の着ているブラウスの白一色になって。

腰元に添えられた手に、ぐっと力が加わった。


やさしい風が吹いて、いつもとは違う香りが、鼻をくすぐる。

普段は部活の後の土と汗のにおいがする。

それが今日は、石鹸だかシャンプーだか、どっちつかずの匂いが香った。




は少しだけ体を離して、そっと泉の頬に触れた。

未だにニキビの後の残るそれを指でなぞる。

泉はの行為に、くすぐったそうに目を細めた。


が頬を指でなぞるのを止めると、泉はの額に手を当て、前髪を少し掻き揚げた。


素早く額にキスを落とすと、の頭をポン、と叩く。



「帰ろうぜ」


「・・・・うん」




ひとさじの甘さ


(20050924)(20070609再アップ)