給水塔にもたれかかって、出掛かった欠伸を無理やり噛み殺す。
目尻にじわりと浮かんだ涙を指で拭った。
見上げた空は、青くてまぶしい。
丁度給水塔の影が出来る場所に居たは目を細めた。
グラウンドでは体育の授業が行われている。ガヤガヤと聞こえる大勢の声は自分のクラスからのものだ。
遠くに居る田島や三橋、泉の姿が見える。視力がいいから、やけに鮮明だ。
勿論、この屋上に居る時点で私はサボり。と、言うより。私は人よりも体が弱くて、体育はいつも見学をするか
保健室に行くことにしている。今日がたまたま、サボりなだけであって。
・・・か弱くないけど病弱って、一体どういう組み合わせなんだ。
普通は消えてしまいそうなほど弱弱しくて、守ってあげたくなるような薄幸の美少女とかじゃないのか。
そこまで考えたところで、は首を振った。生憎自分はサバサバしている方だ。どうやったってそんな風にはなれそうもない。
小さく、溜め息を吐く。別にそんなもん目指してないからどうでもいい。
伸ばしていた両足を立てて、膝に顔を埋める。何もすることがないし、寝てしまおうか。
タイミングよく、さっきまで雲に隠れていた太陽が光を射し始めて暖かくなってきたところだし。
夏のようにジリジリと焼け付くような熱を発さない太陽は、ぽかぽかとした陽気を運ぶ。
うつらうつらとし始めていたは、屋上のドアが閉まる音で急に目が覚めた。
めったに人が来ないこの屋上に、珍しく客だ。
ちょっとした興味本位で入り口の方を覗き込むとばっちり視線が合ってしまって、しかもそれが知り合いだったからこそ
なおさら気まずくなった。
「・・・・浜田、サボり?」
「サボりってか・・・まあ、そうかも」
元の位置に戻ったの傍に浜田がぺたりと座り込む。そんな浜田を横目で見て、すぐに視線を戻した。
何でわざわざ隣に座るんだろう。が再び立てた膝に顔を埋めると、ゴクリ、と喉が鳴った。
しかしその音の出所はではなく、隣に座っている浜田からだ。なぜ生唾を飲み込んだのか。
それとも唾を飲み込んだらたまたま喉が鳴ってしまったのか。
よく分からないが、とりあえず派手な音だった。しかし、浜田はこれっぽっちも気にして居ないようだ。
「あ、あの、さぁ、?」
「・・・何?」
「って・・・す、すすす」
「す?」
「いや、やっぱいいわ」
浜田は言いかけた言葉を飲み込むと、急に怖気づいたような表情をして緩く首を横に振った。
「何なの?言いかけた言葉を途中で止められたら気になるじゃない」
は立てていた膝を崩すと、身を乗り出すようにして浜田の顔を覗き込んだ。
慌てて顔を後ろに引いた浜田の頭が給水塔に勢い良くぶつかり、鈍い音がして顔が歪む。
「・・・大丈夫?浜田」
ぶつけた箇所をポンポンと撫でると、浜田の眉間に皺が寄る。どうやら痛いらしい。そんな様子には笑いを噛み殺した。
次の瞬間、唇に柔らかいものが触れて、思わず目を見開く。
・・・・・・・・・・・・・・・視界いっぱいに、浜田の、か お ?
状況が理解できずに何度も瞬きをしていると、ゆっくりと浜田の顔が離れていく。
「ごめん、」
浜田は真面目な顔で俯いて、呆然としているの顔色を伺っている。
「あの、さ、俺、のこと好きだ」
給水塔の陰でキスをして
(20071018)
たぶんつづく。