「あ!浜田だ!」


聞き覚えのある声が、廊下に響く。
その声は去年まで飽きるほど聞いていたものだった。
それが今では懐かしく感じて、それが何だか可笑しくて。
一つ前の季節まで一緒のクラスだったのに。

「浜田ー!久しぶりー!」


小走りで近づいてきたは、俺の背中をバンバンと叩く。
は力加減をしてくれなかった様で、叩かれた箇所が少し悲鳴を上げた。
が満面の笑みを浮かべて話し始めようとする中で、俺はジンジンと痛む場所を優しくさする。


「最後に会ったのって、終業式だよね!」

「……そうだっけ?」


ホントは、良く覚えてる。
けれど口から出た言葉は、考えていたこととは正反対のものだった。
わざと知らない振りをしてしまう。

俺の反応には珍しく苦笑して。そして、寂しそうな表情を浮かべて。


「…私は、覚えてるよ」

留年すると知ったときの、浜田の寂しそうな表情も。
ごめんなって言って、私を撫でたときの浜田の手の温もりも。
これが最初で最後と、触れた唇の感触も。

小さな声で、紡がれた言葉。
「浜田が留年するって知って、初めて…気が付いたの」



――私がほんとうに恋をしていたのは、浜田だったって、こと。


呟かれた言葉に、浜田は目を瞬く。


「いまさらだけど、私、浜田のことが好き」

もっとずっと前に、聞きたかった言葉。
は瞳一杯に涙を浮かべて、背の高い浜田の腰元に抱きつく。
予想していなかった行動に浜田は体を支えきれず、冷たい廊下に体を横たえた。



――俺、のこと好きなんだけど

――ごめ、ん。わたし、好きな人、いるから


なんて、バカだったんだろう。
恋に恋していた自分に気が付かないで、自分から手を離すなんて。

でも、まだ遅くなかった。
離れた手は、また繋がって、最初で最後だったはずのキスを交わす。



「この恋に、
さよならなんかしたくないの」




浜田の腹の上に乗ったまま、がふと首を傾げる。


「あれ?もしかして、周りから見たら私たち先輩後輩の関係でカップル?わーいやったー!」

「(こいつのこーいうところ、よくわからない)」




(20070218)(前サイトの作品・再アップ 20070609)