もうすぐ、夜が明ける。
リオウとジョウイの後を追って砦を出たは、とりあえずリューベの村に向かった。
確か二人は自分たちの武器と少しの手荷物くらいしか持っていなかったはずだ。
近隣に他の村はないし食料も持っていないだろうから、恐らく彼らはそこにいる。
自分は旅に慣れているし、陽が昇りきる頃には二人にも十分追いつけるだろう。(・・・合流するつもりは、ないけど)
がリューベについた頃、村の広場には人だかりが出来ていた。時折歓声が上がり、人々は盛り上がりを見せる。
その中に、先程見送った二人の姿を見つめて、小さく肩を竦めた。(本当に、追いついちゃったよ)
暫く距離を置いて様子を眺めていると、リオウが一人の女の子に引きずり出され、つられるようにしてジョウイも
中央へ躍り出た。どうやら旅の一座の出し物に巻き込まれてしまっているらしい。
広場の中心に聳え立つ大木の前に立たされたリオウはキョトンとしている。は人だかりの傍に近づいた。
恐らくリオウもジョウイもこの騒ぎでは、自分の姿には気がつかないだろう。
巨体の男が声を上げ、ナイフ投げが始まることを告げる。
アイリと呼ばれた少女はリオウから数メートルの距離をとり、一本のナイフを構えた。
的となる果物がリオウの頭に乗せられ、一気に緊迫した雰囲気に包まれる。
そして少女の手から放たれたナイフは、見事に果物の中心に突き刺さった。
その後、何度かハラハラさせられる場面もあったものの、結局リオウの身は無事だ。
ジョウイはおひねりを集める人員として、成り行きで手伝っている。かなり戸惑っている彼の様子を見て、は小さく笑った。
**
旅の一座の芸が終わり、村人たちの行き来がまばらになった頃。リオウやジョウイは旅の一座のメンバーと話をしていた。
家屋の陰からこっそり話を聞くに、どうやらリオウたちは旅の一座の面々と共にハイランドに行くことにしたらしい。
休戦協定が結ばれている今、都市同盟とハイランドを繋ぐ峠には見張りの兵がいるし、
簡単には通して貰えないのではないのだろうか。
しかし、たとえ通して貰えなかったとしても、何らかの方法を見つけ出して通ってしまいそうな予感がする。なんとなく。
面倒なことになりそうな予感。私は無意識に厄介ごとに首を突っ込んでしまっているようだ。
そんな自分に溜め息をつくと、村の出口に向かって移動し始めた彼らの後を追う。
本当に通ってしまった場合、私はどういう理由で通して貰おうか。実力行使?いや・・・脅すか?
そんな物騒なことを考える。こんなとき猫の姿は役に立つのだが、生憎自由に変身できる力は兼ね備えていないため、
考えても無駄な話だ。今から極端に体力を消耗することなんか出来るわけでもない。(キツイの嫌だし・・・)
は一行の移動ペースに合わせて歩く。あくまでも、見つからないように。リオウとジョウイはユニコーン少年隊に
いたのだから体力があるだろうし、旅の一座のメンバーも流石に旅慣れしているのだろう。
さほど休憩は無いままに峠にたどり着いてしまった。
案の定、見張りの兵に止められている。
リオウやジョウイ、そして旅の一座の二人が食い下がる中、長い漆黒の髪が綺麗な女性だけが一人沈黙を保っていた。
女性は暫く成り行きを見守っていたようだが、どうしても折れない見張りの男たちを見かね、ついに口を開く。
「あの・・・・・・お話があります。隊長さん、少し此方へ・・・・」
彼女は男へ向かって微笑みを向け、隊長と呼んだ男を連れて離れていった。
暫くして戻った二人は、先程とはどうも様子が変わっていた。
女性はただ、微笑を浮かべているだけ。(一体、何をしたのやら・・・)
は肩を竦める。
どうやら通行を許可されたらしく、一行は再び進み出した。
暫く彼らの背中を視線で追った後、はすぐに兵の前に姿を現した。当然のように通行を拒否されるが、は小さく微笑む。
「じゃあ、さっきの五人はどうして通したんですか?このことを、ミューズの市長さんに知らせたらどうなると思います?」
「そ、それは・・・」
「あの五人が何か問題を起こしたら、通したあなたたちの責任は、当然重いですよね?」
「・・・・・・・・・」
渋い顔をして黙り込んでしまった兵を見て、は少々大げさに溜め息を吐いてみせる。もちろん、わざとだ。
「どうしても通してくれないのなら、実力行使でも構いませんよ?」
は微笑を崩さずに腰元の剣を抜き取り、ゆっくりと構える。剣先が隊長の首筋を掠り、男の体が小さく震えた。
「私、急いでいるんです。あの五人を見失うつもりは無いので」
の声のトーンが、急に低くなる。構えた剣の先が、兵の首を優しく撫でた。兵は下手に動けずに硬直している。
「は、早く行け!」
このままでは埒があかないと思ったのか、痺れを切らした兵士が少々掠れた声で叫ぶように言った。
どうやら、相当脅しが効いていたらしい。は兵士の言葉を聞き入れ、ゆっくりと剣先を下ろすと鞘に納めた。
「ごめんなさい、半分脅しだったの。ありがとう」
礼を言いニッコリと微笑むと、見張りの兵たちは呆気に取られた様子でを見ていた。
それを視界に納めて苦笑すると5人の後を追って駆け出す。霧が濃く、姿は見えない。