みんなが寝静まってだいぶ経った頃、何となく眠れないはバルコニーへと出た。
恐らく今の時間帯に起きているのは、見張りの兵くらいだろう。
夜着に着替えもせず軽い装備もそのままに、とりあえずベッドに横になったものの、全く眠くならないし。
かといって酒の力に頼るような気分でもなかった。小さく溜め息を吐く。柔らかい風がの髪を撫でた。
もう夜が明けるのも、案外そんなに時間は掛からないかもしれない。
闇に浮かんだ月の丸い輪郭が、ぼんやりとしている。
睡魔はまだ、訪れない。
は、手すりに軽く凭れ掛かった。一瞬、焦げ臭いにおいが鼻を掠めて、は眉を寄せた。
臭いを辿りながら、ゆっくりと振り返る。その先で、二対の瞳と視線が合った。
「・・・・・・へ?」
何度か瞬きをしてみたものの、その姿は消えない。
姿を現した少年二人は、が居るとは夢にも思っていなかったのか、目を丸くしている。
いち早く我に返ったジョウイは、慌てての口を塞いだ。
「お願いします、騒がないで下さい」
口を塞がれたまま、ジョウイを見上げる。そしてリオウに視線を寄越すと、お願いします、と念を押された。
首を縦に振ると、ゆっくりと手が退けられる。
「・・・キャロに帰るの?」
あくまでも小声で話しかける。話し声で彼らの所在がばれてしまえば、恐らくは捕まった後、本当にここから出してはもらえないだろう。
きっと今は、彼らにとって、逃げ出せる最後のチャンス。
もっとも、ビクトールとフリックは二人を保護する意味でこの砦に置いていたのだけれども。
の問いかけに、二人は小さく頷いた。
「僕たち、帰ります。帰りたいんです。ナナミと・・・姉と、約束したから。必ず帰るって」
「それが例え危険だったとしても?」
「・・・はい」
迷いの無い瞳。何があっても意志を貫こうとするその強さ。
私には、引き止めることなんか出来ない。
「・・・・私は二人を止めないけど、無理はしないこと。危なくなったら逃げること。死んじゃったら元も子もないよ」
いい?と聞くと、二人は肯定するようにして頷いた。
ジョウイが手すりの部分に縄を結んで降ろすと、強度を確かめた後に、迷いも無くスルスルと降りていった。
縄の入手経路は定かではないけども、実に見事な脱出劇だ。捕まったその日のうちに再脱走、なんて誰が予想していただろうか。
実際大人を欺いてしまうのだから、大したものだ。(まあ、私には見つかってしまったけども)
遠ざかっていく二人の背中を視界の端に止めて、自身も背を向けた。
軽く小走りで自分の部屋へと戻ると、ベッドに立て掛けていた愛剣を取り上げる。それを腰に装備すると、
今度はサイドテーブルにあったペンと紙を手に取った。
ペン先をインクの中に突っ込み、走り書きで一言記すと紙をベッドの上に放り投げ、そのまま部屋を後にした。