辺りを暫くパトロールした後、川縁で休憩することにする。
青年は腰を落ち着けられるほどの岩に腰を下ろすと、小さく溜息を吐いた。青年の名はフリック。 三年前の解放戦争に参加しており、その後消息を絶っていたのだが・・・彼は今、都市同盟という地で、傭兵をやっていた。

つい数日前、川を流れてきた少年を捕虜として砦に連れていた。
よく状況が把握できてはいないが、一緒に傭兵をやっているビクトールの話によれば、少年はなにやら事情があるらしい。

フリックは軽く頭を押さえた。ふと、視界の端に一瞬黒い毛の塊が流れてくるのを捉えて、ゆっくりと顔を上げる。


「・・・・・・・・・・・・・・・もさもさか?」

いや、黒いもさもさは見たことが無い。犬・・・いや、大きさから言って猫か?

川べりから手の届く位置まで流れてきたそれを抱き上げると、ひやりとした冷たさが伝わる。 どうやら猫で、合っているらしい。
胸の辺りを手で触れると、微弱だが心臓は動いているようだ。呼吸が浅く、酷く苦しそうにしている。
フリックは連れていた兵に指示を出し、薪を集めて焚き木をするように言った。






*






砦に連れて帰ったものの未だに意識の戻らない黒猫を優しく撫でた。 一瞬、死んでいるのでは無いだろうかと思ったが心音を確認すると微弱だったものは先ほどよりも元気に動いている。


「ビクトール、また拾い物だ」

「なんだぁ?人間でも拾ってきたのか?」

「いや、猫だ。川を流れてたから拾ってきたんだが・・・」

「・・・そいつ、生きてんのか?」


ビクトールのあっさりとした言葉にフリックは本日二度目の溜息を吐くと、布に包んで抱いていた黒猫を机の上に降ろした。 腹の辺りがゆっくりと上下しているのを確認させる。


「まぁ、猫一匹くらいどうってことねぇが、世話はお前がしろよ。途中で投げ出すなよ」

「お前じゃあるまいし、そんなことしないさ」


ビクトールとの軽口を交わした後、フリックは執務室を出て傍らにある自室へと向かう。
黒猫をベッドの脇に寝かせると心なしか猫の表情は穏やかで、フリックは小さく微笑んだ。