うろつく王国軍の視線をかいくぐって、天山の峠に辿り着く。
北に上っていくと、先日ユニコーン少年隊が都市同盟によって急襲されたという焼け落ちたテントがあった。
事後処理を任されているらしい王国兵はもう大分薄れた血の匂いを気にかけることなく作業に当たっている。
王国兵に見付からないよう出来るだけ森を通って更に北へ向かうと崖の上に少し突出した岩があり、
その中程にナイフで傷つけられた跡が残っていた。それを軽く指でなぞる。この跡は急襲の時につけられたものだろうか?、
暫く考えた後、一人の女が地面に膝を付いて崖の上から急流を覗き込む。
ここから落ちたら、落ち方が悪ければ―――高確率で死に至るだろう。
「・・・・・・流石にここから飛び降りる勇気はないわ」
小さく肩を竦めてゆっくりと立ち上がると、足を踏み出した位置が悪かったのか、それとも元々脆い場所だったのか。
一瞬で崩れた地面に足を取られた女は、そのまま急流へ向かって投げ出された。
「――――っ・・・!!」
激しく身体が叩きつけられる衝撃からの痛み。既に身体は水の中。流石は急流なだけあって、流れはかなり速い。
体が上手く動かずに、呼吸もままならない。それでも必死に泳いでいるうちに、相当体力を消耗したらしい。
どんどん視界が狭まっていく。
たまに役に立つけれど、やっぱりこの身体は恨めしくて仕方が無い。
バチャバチャと水を掻く手は、既に黒い毛並みの前足に変わっている。
ああ、もうこのまま死ぬのかも。川で溺れて死ぬなんて、何だか情けないなぁ・・・
最後まで足掻いてみたものの、抵抗する体力も尽きて、水の流れに身を任せた。